歯の矯正治療では、歯に矯正装置を直接接着することが行われている。治療終了後に装置を容易にかつ歯面を傷つけることなく取り外すためには、歯と装置の接着強度を治療終了後に低下させる必要がある。その方法として、今年度は、光触媒を添加した接着材を考案し、歯面に光透過性が高いセラミックブラケットを一定期間接着させた後、接着層に可視光を照射し、光触媒効果を用いて接着材を分解、劣化させることにより、接着強度を低下させることを試みた。被着体歯はヒト抜去歯を、ブラケット材は、矯正用セラミックブラケットを、そして接着材は矯正用グラスアイオノマー系接着材を用いた。接着材には可視光線に応答して触媒効果(酸化反応)を有する材料を添加した。接着体の水中浸漬は37℃4週間とし、接着強度の測定は水中浸漬後直ちに行ったものと、水中浸漬後可視光を照射させた後に行ったものについて行った。その結果、本系接着材は水中浸漬後も十分な接着強度を維持していたが、接着材層に光を照射すせると、照射しないものに比べて有意に接着強度が低下した。また、破断面のSEM観察を行った結果、破断は接着材層の凝集破壊によるものであり、その凝集破壊様相が光照射を行ったものと、行わなかったものとで異なり、光照射によってレジンマトリックス層の凝集力の低下およびレジンとフィラーの界面接着強度が低下したことが認められた。このことから、この方法は簡便かつ確実に接着強度を低下させる方法として、矯正治療の臨床的課題を克服しうる実用的な方法であると考えられた。
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