研究概要 |
ヒト献体49体中の下顎骨オトガイ部48個,上腕骨近位頸部48個および大腿骨近位頸部46個の皮質骨の骨乾燥基質中に占めるミネラル量(%),コラーゲン量(μg/mg)およびコラーゲンリジン残基の水酸化の程度(%)を調べ,下顎骨の皮質骨の骨基質の特異性を明らかにする目的で上腕骨および大腿骨のそれらとの比較を行った.下顎骨においては,上腕骨および大腿骨と比較して,ミネラル量とコラーゲン量が有意に多く,反対にリジン残基の水酸化の程度が有意に少なかった.それらの値は上腕骨と大腿骨の間で有意な差を認めなかった.また,数値のばらつきはミネラル量,コラーゲン量ともに3種の骨間で差は認められなかったが,リジン残基の水酸化の程度では上腕骨と大腿骨と比べて,下顎骨で小さかった.以上より,下顎骨の皮質骨では四肢骨のそれらと比べ,骨基質中のミネラルとコラーゲンが多く,コラーゲンの質的指標となるリジン残基の水酸化の程度とそのばらつきが少ないことが判明し,下顎骨の材料学的特性が優れている傾向が示唆された.皮質骨の代謝は,骨膜からの骨添加,骨内膜からの骨吸収と骨添加,および代謝回転の遅い皮質骨中の骨吸収と骨添加によって成り立っている.皮質骨の特性の比較的多くの部分は骨膜からの骨添加による骨基質特性が関与しているといえ,本研究で行った骨膜の代謝を反映する皮質骨の骨基質分析はインプラント予知診断に有益になりうる可能性が示唆された.
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