本年度は、今回申請した研究課題の最終目的となるマラッセの残存上皮細胞が歯の形成能を所有しうることを検討した。 検討方法はin vitroにおいて、マラッセの残存上皮細胞がエナメル芽細胞に分化することを確認すること、in vivoにて組織工学的手法を用いてマラッセの残存上皮細胞と歯髄細胞との上皮-間葉相互作用によってエナメル芽細胞に分化し、エナメル質を形成することを確認することである。 昨年度において、ブタ乳歯歯根膜からマラッセの残存上皮細胞の単離と培養に成功している。そこで、その培養マラッセ残存上皮細胞とブタ第三臼歯歯髄組織から単離した歯髄細胞と共培養することで、マラッセの残存上皮細胞がアメロゲニンを発現することを免疫細胞化学染色とRT-PCRによって確認した。マラッセの残存上皮細胞を単独で培養した場合およびフィーダー細胞と共培養した時はアメロゲニンを発現しなかった。したがって、マラッセの残存上皮細胞は歯髄細胞と共培養するとエナメル芽細胞に分化することが示唆できる。 次に歯の組織形成能を検討するために、培養マラッセ残存上皮細胞と歯髄細胞をコラーゲンスポンジの担体に播種してヌードラットの腹部大網に移植した。移植4週後と8週後に試料を取り出して、組織学的及び免疫組織化学的に解析した。移植4週後では、すでに象牙質は再生し、その再生した象牙質上にアメロゲニンに陽性となるエナメル芽細胞が配列していた。さらに、移植8週後においては、象牙質-エナメル質の複合体が再生し、エナメル質はアメロゲニン抗体に陽性であった。これらの結果から、マラッセの残存上皮細胞は歯髄細胞との上皮-間葉相互作用によって、生体内においてもエナメル芽細胞に分化し、エナメル質を形成できることが確認した。
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