研究概要 |
腺組織に代表される実質臓器の再生はいまだ困難である。複雑な臓器の再生にとってより現実的な選択は、損傷を受けた組織に存在する再生力を利用し、組織再生の過程を促進することによる治療と考えている。唾液腺組織の再生過程を促進するための研究が行われているが、現在用いられている体性幹細胞、あるいは培養唾液腺細胞では、再生能力が不十分であることが明らかとなってきた。したがって、本研究では唾液腺を構成するすべての細胞種へと分化可能な幹細胞を同定し、増幅させるための検討を行なうこととした。第1のプロジェクトとして、放射線照射による唾液腺萎縮モデルに対する骨髄単核球分画の移植実験を行った。20Gyの照射により唾液量は有意に減少する。照射後の顎下腺に対して同種骨髄由来単核球細胞の投与により、唾液分泌量の回復を認めた。さらに、放射線照射モデルによる治療ウインドウは照射後-14日と比較的長期にわたることが明らかとなった。その一方で単核球細胞からの腺房細胞への分化は確認できなかった。第2のプロジェクトは、唾液腺中に含まれる可塑性の高い幹細胞分画の抽出と増幅である。昨年度までの研究にて、唾液腺中に含まれる幹細胞分画を濃縮し、維持させるための培養法を確立した。本培養では平面培養を続けると腺房、あるいは導管へと自発的な分化が起こる。幹細胞としての分化能を維持するためには、そのトリガーとなる因子についての検討が必要である。本研究期間中には、EGF,bFGFの添加あるいは枯渇による分化誘導の可能性について検討を行った。しかしながら、これらの因子の増減は分化誘導刺激とはならず、その一方でconditioned mediumによる分化誘導の可能性が示唆された。以上から、本培養中の幹細胞分画は、autocrine,あるいはparacrineのメカニズムにより分化が制御されているものと考えられた。
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