研究概要 |
口腔内感染症である歯周炎と冠動脈心疾患の関連について疫学的報告が多くなされている.しかし,歯周炎患者における冠動脈心疾患の発症・進行に対するリスク因子については明らかにされておらず,特定の歯周病原細菌に対する反応や細菌に対してある種の反応性を示す歯周炎患者において冠動脈心疾患と関連する可能性が考えられる.今年度は冠動脈心疾患患者において歯周病原細菌に対する抗体応答のバリエーションを検討した.冠動脈心疾患患者(CHD群;51名)の歯周炎罹患状況,コレステロール(HPLC法),高感度CRP(Latex-enhanced immunoassay), TNF-α, IL-6,歯周病原細菌12菌種に対する抗体価(ELISA法)を測定した.同様の測定を冠動脈心疾患の既往のない歯周炎患者(P群;55名)および健常者(Control群;37名)に対しても行い,各群間の差をMann-Whitney U-testにて解析した.その結果、HDL-コレステロールはP群・Control群に比較してCHD群において有意に低い結果となった.LDL-コレステロールについては3群間における差は認められなかった.高感度CRP, IL-6の血清レベルはContro1群に比較してP群において有意に高く,CHD群においてはP群・Contro1群に比較して有意に高い結果となった.TNF-αについてはP群・Control群に比較してCHD群において有意に低い結果となった.P. gingivalis Su63株およびP. gingivalis FDC381株に対する血清抗体はControl群に比較してP群において高い陽性率を示した.CHD群においてSu63株に対する血清抗体はP群と同程度に高い陽性率を示したが,FDC381株に対する血清抗体はP群に比較してその陽性率は低い結果となった.冠動脈心疾患患者においては歯周炎患者よりもさらに強い全身的な炎症変化が認められ,一方P. gingivalis Su63株に対する体液性応答の亢進が認められた.ある種の歯周病原細菌の特異的な存在が冠動脈心疾患のリスク因子となり得ることが示唆された.
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