研究概要 |
マウスにおいて実験的歯周炎モデルを確立し、P.gingivalis口腔感染が各種組織・臓器に及ぼす影響を遺伝子レベルで解析することを目的とした。8週齢のC57BL/6にあらかじめ抗生剤入りの飲料水を与えて口腔内常在菌を除去した後、フィーディングニードルを用い、メチルセルロースに懸濁したP.gingivalis W83株の生菌を3日に1回、計10回経口感染させ、最終感染から2日後に安楽死させて、解析組織を採取した。対象群にはメチルセルロースのみを接種した。歯周炎の指標である歯槽骨吸収はX線マイクロCTで、感染部位、組織中のP.gingivalisの存在はPCRで測定した。血清中の各種炎症マーカー、脂質プロファイルは上記と同様の方法で測定した。大動脈、肝臓における遺伝子発現はDNAマイクロアレイと定量PCR法で測定した。その結果、P.gingivalisの口腔感染は歯周炎の特徴的な病態である歯槽骨吸収を誘導した。口腔内からはP.gingivalisは検出されたが、いずれの個体においても血液中からは血清炎症マーカーはヒト歯周炎患者と同様、感染群でhs-CRP,IL-6の有意な上昇を誘導した。一方で血清脂質プロファイルには有意な変動は認められなかった。in vitroで脾細胞をP.gingivalis可溶性抗原で刺激したところ、感染群においてIL-6の著明な産生増加が認められたが、対象群では刺激の有無によるIL-6産生に違いは認められなかった。このことより、血清中のIL-6レベルの上昇は細菌の感作によるものであることが示唆された。大動脈組織の遺伝子発現解析では感染群で炎症関連遺伝子(Egr1,CCL2)の上昇、脂質代謝関連遺伝子(LXRa,LXRb,ABCA1)の発現低下が認められた。肝臓においては炎症関連遺伝子(Egr1,CRP,IL-6)の上昇、脂質関連遺伝子(LXRa,LXRb,ABCA1)の低下が認められ、さらに耐糖能に関連するAdipoR2の発現低下も観察された。一方、動脈硬化病変については発症は見られなかった。
|