研究概要 |
ルーマニアとブルガリアにおける羊の移牧がEU加盟直後どのような変質をせまられているのか,その結果自然環境にどのようなストレスを与えているのかを知るために,2007年8月18日から9月22日までルーマニアのカルパチア山地と,ブルガリアのロドピ山地の調査をおこなった。その結果両国でEU加盟後の羊の移牧の変質が異なっていることがわかった。ルーマニアでは羊のチーズ保管方法の改善,商品としての保冷庫での移送の義務化など,先進国の牧畜業と同じ条件が課せられているため,200頭以下の農家の経営がたちゆかなくなっていて,小規模牧畜業者は転業をせまられている。一方で家族,親戚等で統合し,経営規模を拡大し,1,000頭〜2,000頭にすることで抵抗力をつけた牧畜業者が出現し始めている。特定の場所では,土壌侵食が一層深刻化をしている。一方零細牧畜業者が廃業したことで草地が林地化する場所も増加している。かって自由主義化したことによって大きく変革したルーマニアの移牧はEU加盟によって再び大きく変化を遂げようとしている。ブルガリアは自由主義化の後,移牧は衰退し,むしろ草地の林地化が著しい地域が増加していた。EU加盟後,ブルガリアではチーズ工場の建設,小規模の牧畜業者育成のための助成金の支給など,ルーマニアとは別の方向でのEUの支援が目立った。EUは今後,ブルガリアの羊の牧畜を一層増進させようとしている。このことは,今後の自然環境へどのようなストレスを与えていくのか,さらに追跡する必要がある。
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