研究課題
平成21年度は前年度までの成果を踏まえて、出稼ぎが子供に与える影響に関する総括的な調査を進めた。フィリピンでは、渋谷英章[連携研究者]がレガスピ市とアルバイ県において、留守家族に対する聞き取りを行い、出稼ぎの主動機が子どもの教育のためであるにも拘わらず出稼ぎが却って子どもの教育にマイナスとなる面があること、出稼ぎ目的の就学でフィリピン全体の人材養成にゆがみが出ていることを明らかにした。同じくフィリピンで長坂格がイロコス・ノルテ州ピッディッグ町において出稼ぎ者の留守家族への聞き取りを行い、子どもを帯同した出稼ぎが増加しており子どもの養育のパターンに変化が生じていることを明らかにした。タイにおいては、平地農村について、馬場がナーン県で聞き取り調査を行い、祖父母による子どもの養育に特に問題がないことと学校教育と農業後継者確保との矛盾を明らかにした。木曽恵子[連携研究者]はマハーサラカム県平地農村で出稼ぎの変化について調査し、出稼ぎの多様化、祖父母の孫育ての増加と出稼ぎによる教育格差が生じていることを明らかにした。タイ山地農村については、吉野晃と鈴木琴子[連携研究者]がナーン県の山地民族ヤオの村落において世帯調査と個別の聞き取り、教員への聞き取り調査を行い、出稼ぎの主動機が農業投資と教育費であること、核家族化の一方で拡大家族的なネットワークによる子どもの養育という矛盾した傾向が見られること、父母の不在が子どもたちの心理に確実に影響を与えていることを明らかにした。片岡樹はチエンラーイ県の山地民族ラフの村落において出稼ぎの変化に関する調査を行って、出稼ぎ以外にも親子別居が広がっており、それらが学校教育を原因とすると同時に学校教育の結果でもある点を明らかにした。総じて、社会構造により差異はあるものの、多くの事例において教育費を得るための出稼ぎが逆に教育上の問題を生じているという点、および学校教育が出稼ぎをもたらしている面があることが明らかになっている。
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地域研究 10巻1号
ページ: 90-109
国際人流 6月号(印刷中)
ページ: 28-31
Urbanization and Formation of Ethnicity in Southeast Asia(New Day Publishers (Quezon City))
ページ: 287, 77-99
中国国境地域の移動と交流-近現代中国の南と北-(有志舎)
ページ: 361, 237-258, 261-284