研究者の加藤は、今年度はアメリカへ1ヶ月弱の出張を行なった。出張先はアメリカのコーネル大学である。研究は、主として同大学オーリン図書館のエコルズ東南アジア・コレクションにおいて資料の閲覧と収集を行なった。目的は、これまで行なった研究の中で比較的空白となっていたオランダ植民地支配末期から日本軍政期を経てインドネシア革命期におけるスマトラ、なかでもクアンタンにおける状況について、資料を渉猟することであった。残念ながら、この時代についての目新しい資料の発見は乏しかったが、以前すでにその存在を確認していたPandji Pustaka(1920年代初頭以来、バタヴィアの図書局から出版されたグラビア誌)を集中的に閲覧できたことは大きな収穫であった。これには読者欄があって、ここにはスマトラからも多くの投稿が載せられており、その中には時代状況をよく映し出した内容のもの(例えばオランダ植民地支配に対する間接的な批判)も含まれており、書き手は識字者に限定されるとはいえ、これらを丹念に読み解くことが、市井の人々の意見を汲み取ることに繋がるとの結論を得た。 連携研究者の阿部はインドラギリ川下流部地域に2週間の出張を行なった。インドラギリ・ヒリル県の県庁では、ここ5年ほどの農林水産業統計・人口統計および開発計画関連資料の収集を行ない、関係担当者へのインタビューを行なった。急激に変化しつつあるインドラギリ川下流域社会の実態の全体像をマクロに把握するためである。その後、1980年代半ばから断続的に訪問している調査集落を訪れ、本プロジェクトの手法である定点継続調査を実施した。戸別悉皆調査を行ない、人の移出・移入、経済活動の変化など、社会変動の実態を具体的に明らかにしようと試みたものである。
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