研究概要 |
フィリピンにおいて数多くの森林再生援助事業が実施されてきたにもかかわらず,多くが持続的な森林管理に結びついていない原因として本研究では,森林管理のための開発組織が根付く仕組みが村落に存在していないことにあるという仮説を立てた。開発組織を根付かせる仕組みが組織内の社会関係資本にあるのか,あるいは村落の経済基盤にあるのかを明らかにするためミンダナオ島北ダバオ州の一山村で調査を行なった。調査村は商業伐採跡地に自発的に入植した人々とその子供世代によって形成された典型的な移住村である。1990年代初頭に森林再生援助事業地として植林が進められ,2003年より植林木の伐採が可能になった。調査村には形成別に,行政組織,開発組織,住民が自発的に作った自生組織の3つの機能集団が認められる。住民の多くは親戚,姻戚関係で結ばれ,これらの3つの機能集団の構成員は重なり合う。したがってい開発組織であっても構成員内部では社会関係資本は醸成されていると考えられる。本研究の調査対象である森林組合は,森林管理を目的に政府の要請で作られた開発組織である。伐採活動が始まった当初は森林組合が村の森林資源を一元管理し,持続的経営を行なっていた。しかし,木材を高く買う村外のバイヤーとの交渉を希望する住民の声に森林組合が応じてからは,組合による管理体制は崩壊し,植林木のほとんどが伐り尽くされてしまった。住民に持続的な現金獲得手段が欠如していることが持続的な森林管理を困難にしている。さらに,伐採後に住民が手にした純利益がわずかでしかなかったという事実は住民に森林管理継続への意欲を失わせた。開発組織としての森林組合が根付くための仕組みとは,構成員間の社会関係資本にあるのではなく,むしろ個人の生業,とくに市場との関係のあり方にあると考えられる。住民の組織作りを基本とする現在の援助の方法論の見直しが必要であることを示している。
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