フィリピンにおける森林再生援助事業の多くが持続的な森林管理に結びつかないのは、外部によってつくられた開発組織(本研究における森林組合)を根付かせるための仕組みが地域社会に存在しないことに起因するという仮説を立てた。ミンダナオ島北ダバオ州の山村では開発組織が機能不全に陥った事例を検証したが、今年度は比較対象として開発組織がその機能を継続させている事例としてミンダナオ島ブキドノン州の山村での調査を開始した。比較するために、(1)村全体が国有林地に位置する山村である、(2)すでに森林組合による植林木の伐採が開始されているという条件で対象地を探してきたが、ミンダナオ島東部ではこれら二つの条件を満たす山村を見つけることができなかった。この事実自体、1980年代末から90年代初頭にかけてフィリピン各地で仕立てられた植林木が伐期を迎えるまで生存している比率の低さを示唆している。対象地選びの次善策として(1)の条件を維持し、伐採は開始されていないが植林木が維持されているところを探し、ブキドノン州の山村を調査地とした。伐採が開始されていないのは、環境天然資源省が許可を与えていないからであるが、植林木を売りたいという住民は存在する。同村に植林事業が導入された際につくられた開発組織は、その主たる機能を商品作物(バナナ)生産とその流通に置いている。これが北ダバオ州の木材生産に特化した開発組織との最も大きな相違であり、開発組織が根付くための条件に関連することが示唆される。すなわち、商品作物生産による定期的な所得確保が住民の植林木伐採圧を軽減している。ただし、市場性の高い作物生産を確保することで植林木伐採圧が軽減され多様な土地利用景観を作り出すのか、あるいはより高い土地生産性を求めて植林地から商品作物への転換を選択するのかは資本力や労働力などの条件で世帯毎にその対応が異なる可能性があるため、今後は世帯調査を続けて検証する必要がある。
|