本年度は、「文化分権(=連邦)主義」「文化民主主義」「文化的アイデンティティ」および「文化的多様性」の促進を基本理念としてきた戦後(西)ドイツの文化政策が、東西ドイツ統一、欧州統合とその拡大、さらにはグローバル化の進展のなかで、いかなる現実的課題に直面し、その基本方針もしくは具体的施策の面で、どのような変容が現われてきたかを調査・研究した。 藤野は、5月〜8月及び12月〜1月に、ザクセン文化基盤研究所の学術共同研究員、およびツィッタウ-ゲルリッツ大学の文化政策・文化マネジメント講座のスタッフとともに、ザクセンの文化環境と文化政策についてのフィールドワークを行った。これにより、(1)ポーランドと国境を接するゲルリッツ市の多文化共生を目指す文化政策、及びその実現のための文化マネジメント教育の現状と課題が明らかとなった。(2)若く有能な女性を中心に人口流出が拡大する旧東ドイツ地域において、文化による地域活性化がいかに重要であるかが明確となった。(3)ナショナルマイノリティーであるソルブ民族文化の保護・育成を、州および連邦の文化政策の枠内で推進する際の課題が先鋭化してきた。 小林は、7月にフランス(パリ、ナント)及びドイツ(カッセル、ミュンスター、ゲルリッツ、ベルリン)において、都市政策における芸術文化の役割について調査し、グローバル化の中での都市アイデンティティの再発見及び社会問題の解決にとって、アーツが多様な寄与をしている実態を明らかにした。 また3月の研究会では小石かつら氏(学振特別研究員)が、ライプツィヒの文化政策の最新動向について報告を行い、旧東ドイツ時代の芸術文化制度及び市民の意識が、統一以後どのように変容してきかについて考察した。
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