昨年度までの調査にもとづく研究成果の一部を7月上旬にオーストリアで開催されたコイサン言語学国際シンポジウムで発表した。8月から10月にかけて、これまでに蓄積してきたハバ語と東カラハリ・コエ語族チレチレ語の語彙資料の一部をもとに、同根語彙の比較によって、音対応の同定作業を試みた。また、両言語のクリック子音体系と非クリック子音体系の構造的な比較を行うことにより、通コエ語族的に観察されるクリック伴音間にある階層関係についての仮説(ユニット・クリック内での通言語的頻度、クラスター・クリック内での通言語的頻度の比較に基づく有標性に関する仮説)を設定した。 マックスプランク進化論人類学研究所およびマックスプランク心理言語学研究所のセミナーでコエにおける知覚モダリティの語彙化に関する発表と、グイ語のイディオフォンに関する初期報告を行った(8月と9月)。 11月および12月〜1月に、研究代表者と連携研究者(大野)が追加資料(語彙および形態統語論のデータ)収集のための現地調査をボツワナ共和国ハンシー県で行った。 東京外国語大学に客員/特任として訪れるアフリカ言語学者、ベアント・ハイネ教授およびクリスタ・ケーニヒ博士と研究討議を行い、これまでの研究成果と今後の課題についてコメントを受けた。両氏は、コエ語族の北西部グループであるKhwe語の主に文法的事実に詳しいので、この言語データを踏まえた視点から、これまでのグイ語文法の諸現象に関する興味深いフィードバックを受けることができた。
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