今年度は昨年度までの遺跡とは異なり、より上流のハバロフスク周辺に位置する遺跡(クニャーゼ・ヴォルコンスコエ1)を選定し、夏8月約2週間にわたって日露共同で発掘調査をおこなった。大きな発掘区を二つ設置し地山まで掘り下げた。アムール川下流域の新石器時代を代表する文化であるコンドン文化の年代的位置、およびその文化内容の実態が従来不明なままであったが、この遺跡はコンドン文化の単純遺跡であり、コンドン文化の解明のために調査した。冬にこの夏季発掘資料を整理するためにハバロフスクの博物館に赴き、出土遺物の図面作成、写真撮影などの資料整理を行った。そして、発掘調査時に採取した資料から年代測定を実施した。まだ分析は完全には終了していないが、コンドン文化期の土器の実態が明らかとなり、後続するマルイシェヴォ文化との分離が可能となり、また石器組成では石刃が主要な素材となっていること、それを用いた石刃鏃の存在がより確実となった。年代測定も未だ途中であるが、確実な年代測定値が従来ほとんど無かったコンドン文化期の年代測定値の数が増したことでほぼ年代を特定することができるようになった。また、代表者は従来コンドン文化に代表されるアムール編目文土器諸文化を三段階に分けているが、この遺跡の資料はコンドン文化期の土器の年代的細別を考える上で重要な資料となるであろう。石刃鏃も東北アジアの新石器時代前半に広域に分布した特徴的な石器であり、周辺地域の諸文化との比較を可能とする重要な石器である。昨年度までの層位的に出土したマラヤ・ガバン遺跡での発掘資料と今回の単純遺跡での調査成果を総合することにより、アムール川下流域の新石器文化の変遷をかなり解明することができた。
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