本年度は、研究計画通り、夏季にアムール川下流域のキジ湖周辺の分布調査、冬季にロシア・ハバロフスク市およびマガダン市の所蔵資料の調査を実施した。 キジ湖は間宮海峡と近接しており、大陸-サハリン間の文化交流論のなかで注目される地域である。しかし、先史時代遺跡の調査はほとんど実施されておらず、過去に於いて当地域の果たした役割は解明されていない。そこで、本年度はキジ湖畔周辺で日露共同遺跡踏査を行い、その実態解明を目指した。本調査では、近隣地域における先史遺跡の立地条件を参考とし、主要な岬周辺と小高い台地上で試掘を行った。その結果、キジ湖北東部および中央部の試掘坑(チルバ1遺跡、サンニキ1遺跡)において遺物を確認した。両試掘孔の遺物は古金属器時代以降のものと考えられるが、今のところ詳細な時期を特定できていない。ほかの地点では、遺跡の存在を確認していない。現状において、キジ湖畔の遺跡群をアムール川に面した遺跡群と連続的に捉えることは困難である。 キジ湖畔の遺跡踏査と並行して、ハバロフスク地方郷土誌博物館で、ダリジャ湖畔のダリジャ1~3遺跡とウディリ湖畔のロガチョフスキー島(カリチョーム7)遺跡の出土遺物を調査した。ダリジャ2遺跡出土資料には、東シベリア系のスィアラフ文化(新石器時代前期)、ベリカチ文化(同中期)に関係する土器片が確認され、アムール下流域と東シベリアの文化交流を考える上で重要な所見を得た。 マガダン市では、北東国立大学・ロシア科学アカデミー極東支部北東地域複合科学研究所において、カムチャッカ半島やコリマ川流域に所在する新石器時代遺跡群の出土遺物を調査した。また、オホーツク海北岸地域・チュコト半島の考古学に関して現地研究者と意見交換を行い、アムール下流域と比較するための情報を入手した。
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