古代エジプト新王国第18王朝後半には、アクエンアテン王のもとで所謂「アマルナの宗教改革」が断行され、古代エジプト社会が大きく変容を遂げた時代であった。そうした変容は社会の政治宗教の制度などの問題ばかりでなく、当時、エジプト各地に造営された岩窟墓を中心とする墓の構造にも大きな変化をもたらしている。 そこで本研究では、「アマルナ時代」の直前の時代である第18王朝のアメンヘテプ3世治世下(とりわけ治世第30年以降)で生じた岩窟墓の変遷に関して、テーベ西岸の岩窟墓を中心として研究を行う。アマルナ時代直前のアメンヘテプ3世治世晩年には、それまで見られなかった精緻なレリーフ装飾を墓内壁画に見る大型の岩窟墓が突然として出現するようになる。そうしたテーベ西岸に存在するアメンヘテプ3世治世からアメンヘテプ4世(アクエンアテン王)治世にかけての大型岩窟墓を詳細に検討することによって、その変化の状況とその背景にある社会変化を追及していくことを目的としている。 特に、当該時期のレリーフ装飾を持つ大型岩窟墓の中で20世紀初頭に簡単な調査が実施されたにもかかわらず、その後100年以上も行方不明となっていたテーベ西岸アル=コーカ地区に位置するテーベ岩窟墓第47号(ウセルハト墓)の発掘調査を行うことで、この時代の墓の変化を追求する研究を遂行する上で重要な資料を提供することを目指していく。この第47号墓は、これまで正確な位置や規模・構造などが不明であり、発掘調査を実施することで、岩窟墓研究にとって極めて重要な成果となることが期待される。
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