研究概要 |
本年度は,パンタナールのパイアグアス(Paiaguas)地区を対象に,環境保護の名の下に実施されてきたポッカ(Boca,自然堤防の亀裂で河川水の外部への流出口)の周年開放が引き起こしたさまざまな問題を実証的に解明した。その具体的内容は,以下のようである。 1.ポッカの周年開放が一方的に実施・強要された1990年代前半頃の住民運動などに関する文献や,浸水により立ち退きを余儀なくされた住民の移住先(近隣都市のコルンバCorumba)での生活実態に係わる調査資料を収集した。その結果,行政と住民の軋礫や移住者のインフォーマルセクターでの厳しい生活実態が明らかになった。 2.ポッカの開放状態や流域での浸水・植生破壊の状況を,上空から小型飛行機で観察し,ハイビジョン・ビデオカメラで撮影・記録した。ただし,既存の撮影システムでは,広域静止画の作成に使える映像が獲得できなかった。 3.とりわけ浸水が顕著な,タクアリ川下流域に立地するファゼンダ・サンルイス(FazendaSaoLuiz)を事例に,(1)地下水位の上昇と浸水域の広がり,(2)浸水に伴うムルンドゥ(Murumdu:vegetated earthmounds)の植生破壊の実態,(3)浸水域の拡大がおよぼす牧畜経営やエコツーリズムへの影響,について調査した。その結果,7300haの農場全体の約6割が浸水地となってしまったことや,特定樹種の枯死が顕著なことなどが明らかとなった。 4.生活物資や家畜のウシなどを運搬するパラグアイ川での伝統的な河川交通や,近年の大型船を利用したスポーツフィッシングの実態について聞き取り調査を行った。
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