研究概要 |
今年度は二つの調査、研究を行った。一つは,フィリピン共和国ボホール州での農村調査および家計調査の集計であり,もう一つは同カピス州での漁村調査とそのデータの分析である。 ボホール州の調査では,従来の研究代表者自身による農村調査に加えて,現地NGOであるボホール地域開発基金(BoholLocalDevelopmentFund)に委託した網羅的な家計調査と,現地のBersaluna氏に委託した健康調査を行った。現在,家計調査データの集計を行っているところである。また,従来のデータの解析も続けており,次の2点が明らかになった。これらの点については今後,論文として発表していくべく準備をしている。 1)農村の予測不能なリスクが高いという条件の下では,マイクロファイナンスは農民の生活の経済的向上には貢献せず,かえって貧困を固定化し,貧富の格差を拡大させている。従来,マイクロファイナンスが貧困削減に果たす重要性が指摘されて来たが,マイクロファイナンスがむしろ逆の効果持つという事実の発見は重要なものである。 2)マイクロファイナンスを巡る人々の行動は,前スペイン期のフィリピンの社会秩序と多くの共通性を持ち,また海域東南アジアという広いコテクストの中で理解する必要がある。 パナイ州の調査では,漁場を巡る人々の相互交渉とサリサリストアの運営に関わるデータの収集と分析を行った。漁場を巡る相互交渉においては,伝統的な方法による相互交渉が,漁民の数の増加という条件の下では生態環境の悪化と漁民収入の停滞が起きていることが明らかになった。そして,こうした場での漁民の行動パターンは,海域東南アジアという広いコンテクストの中で捉えると,上記の農民の行動や,他の国における事例と共通性が見られる。こうした点はフィリピンをはじめとする東南アジアの貧困削減において,歴史を考慮することの重要性を示唆するものである。
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