北方ユーラシアの先住諸民族の許で展開されてきたトナカイ牧畜に関し、当初予定していた調査地(西シベリアのネネツ民族居住地)の代替地として、同じくシベリア地域のトナカイ牧畜文化圏の中心の一つであるサハ共和国(ヤクーチヤ)コビャイ地区セビャン・キュエリ村において実施した。本調査は、総合地球環境科学研究所における調査プロジェクトの一環としても実施することになった関係で、調査時期が当初予定の9-10月から7-8月に変更になった(サハ共和国側受け入れ機関:人文科学北方民族問題研究所)。 当地区においては、セビャン・キュエリ村に滞在(8/5-8/6及び8/11-8/19)、同村近傍地において国営企業『セビャン』の一トナカイ群において現地調査を実施した(8/6-8/11)。当村は特に夏季の交通の便が極めて悪く、今般短期ながら滞在できたのは貴重な経験であった。ネネツ民族においても調査してきた現存牧畜管理技術、地域経済政策、自然条件の変化・変動と住民の環境認識・在来知といった視点を中心に、現状の調査を実施した。 今般の調査により判明ないし確認した主要点としては、以下があげられる。 1)国営企業のトナカイ経営管理においても、エヴェン民族の在来知に基づくトナカイ牧畜法が基礎になっている。 2)山岳地形におけるトナカイ飼育は、群・個体管理の点から多くの困難な点を克服する形で実施されている。 3)気候変動(夏季の降雨頻度・降水量大)や薪用木材伐採による土壌侵食がみられ、牧地荒廃が進んでいる。 4)近年の経済改革の実情に合わせて、国営企業としても経営合理化・企業努力を図っている。しかし採算性という点では厳しい状況にある。
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