研究概要 |
平成20年度の調査では,瀬地山,中西,幡谷(在外のためコロンビアに長期出張)は,平成19年度の成果にもとづき,それぞれ,ベトナム,フィリピン,コロンビアにおいて,属性別に首都圏における複数の調査対象地区を選定し,地区内外の複雑な社会ネットワークについて調査を行った。さらに,後藤,中西,樋渡は,中央アジアのソビエト社会主義体制下にあったウズベキスタンに赴き,移行期の経済において,コミュニティがどのような役割を果たしているのか,また,どのような影響を体制から受け発展してきたのかについて,2つの都市近郊のマハッラを対象としてインタビュー調査とデータ収集を行った。最後に,後藤は,得られた一次資料による定性・定量分析によって社会ネットワークの特徴を抽出し,そのネットワークを活用した場合の開発プロジェクトの効果についてのシミュレーション分析のための準備を行った。 以上の調査におけるポイントは,経済体制,社会構造の違いがどのように,社会ネットワーク,ひいては社会変容に影響するかであった。フィリピンとコロンビアは典型的な二階層社会であり,社会的流動性の観点から都市貧困層に社会的排除が生じやすく,族内婚による貧困層地区内ネットワークが緊密になる傾向が確認できた。コミュニティはある程度まで貧困緩和に寄与するものの,他方で貧困を慢性化させる。これにたいして,ベトナムとウズベキスタンは父系制親族制度の下で緊密な親族・姻族制度が展開されいるため,貧困問題は社会ネットワークの中で包摂されてきた可能性が確認できた。しかしながら,他方で旧社会主義社会固有の問題として,コミュニティ自体が中央政府介入の装置として機能し続けてきたという背景もあり,その社会ネットワークは固有の複雑性を有している。今回の調査では,こうした経済体制の違いがコミュニティ開発にどのような影響を及ぼすかの基本データを収集した。
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