本研究の目的は、1990年代に激しい紛争を経験したシエラレオネという西アフリカの小国に注目し、その都市部における精神保健状況を多角的に調査することにあった。主な調査項目は、(1)植民地期の精神保健状況、(2)精神保健の「サービス提供者」の現状とニーズ、(3)精神保健の「当事者」の特性、(4)薬物の乱用状況、(5)薬物取締・リハビリテーション関連の法制度、(6)伝統的治療者の実践活動、の6項目であった。(1)植民地期の精神保健状況としては、公文書館での史料収集の結果、当時の主要な精神疾患や医療施設の詳細を明らかにすることができた。(2)精神保健の「サービス提供者」については、シエラレオネ精神科病院、シティ・オブ・レストなどを対象に調査を行い、その規模、スタッフ、入院患者、課題などの諸項目について情報を収集した。(3)精神保健の「当事者」の特性については、シティ・オブ・レストという施設で共同生活をおくる精神病者に対して聞取調査を行い、「スピリチュアル・アタック」などの主訴があることを考察した。(4)薬物の乱用状況と(5)薬物関連の法制度については、医療機関のほか、「ゲットー」や「カルテル」と呼ばれる薬物密売・喫煙所を訪問して薬物依存症者への聞取調査を実施したり、薬物関連法の情報収集を行ったりした。(6)伝統的治療者の実践については、フリータウン郊外で精神病者への治療を実践する伝統的治療者に対して聞取調査を行った。
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