本研究においては、オフショア地域の金融センターを主な対象として、信託法制の調査研究を行ってきた。これまでの一連の研究を通じて次のようなことが明らかになってきた。従来、信託の法的な最大の特徴は、受託者のコモン・ロー上の権限と受益者のエクイティ上の権限の分属にあるとされてきた。それゆえ、大陸法諸国では、そうした「コモン・ローとエクイティ上の権限の分属」といった法的構成が採れず、多くの欧州諸国では、それぞれ独自の「信託類似制度」が存在するものの、法制度としての"trust"そのものは存在できないと考えられてきた。しかしながら、近時、英米法系の信託に特有のそうした法的構成に拠らず、「分離された財産(patrimony)の独立性」という観念に信託の特徴を見出す考え方が、大陸法ベースの法域における信託の導入を展望するうえで有力となってきている。
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