研究概要 |
本研究はステュアートの手書き草稿資料を解読し、体系的に研究資料として整備する構想の一環として【経済学準備草稿】というべき草稿群を扱うものである。19年度は以下の2点の論考/標注を解読し研究した。 1) Notes and Observations on the political testament of Cardinal de Richelieu. 2) Answers to Voltaire's objections against the authentieity of the Cardinal de Richelieu's testament. 1)はルイ13世の名宰相であったArmand Jean du Plessis, Duc de Richelieu(1585-1642)のTestament Politiqueからステュアートが主にフランスの財政制度及び財政状態を把握するために抜粋し注解を付したものである。このTestament Politiqueをめぐっては、Francois-Marie Arouet, Voltaire(1694-1778)が「偽物である」と主張し、広く受け容れられた。2)は、ヴォルテールのこの主張に対するステュアートの反論であった。 結果的にこれらの資料は予期された以上に大きなインパクトをもつ資料であり、 ・ステュアート『経済学原理』の財政論箇所の形成史を明らかにするという観点だけでなく、 ・従来は一切資料がなかった、ステュアートとヴォルテールとの関わりを指し示す初めての資料となった。 ・さらにまた、このTestament Politiqueの真偽については一般的には1880年になってHanotaux等により本物であることが明らかにされたとされる。その百年以上まえにステュアートが精緻にその本物であることを論証していたことが今回の研究により明らかとなった。
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