研究概要 |
本年度は,最後の本格調査の年にあたり,地域の特性に応じて,以下の本格調査を展開した。一つは,コミュミティの成員は社会ネットワークをどのように活用しているかを理解するために,複数の異なる性質を持つ情報を利用して,ネットワーク構造上の中心者,仲介者から末端者に至る情報到達経路を特定化することである。この調査は,主として研究代表者中西と研究協力者マキトがあたり,コミュニティの成因が,不特定多数への流出を許可する非排除性を有する情報から親しい仲間内だけの流通に留めたいと考える排除性を有する情報までの様々なレベルの情報である。仮に,従来からの親族重視のコミュニティが形成しているとすれば,排除性の高い情報は親族内を流通するはずであり,逆に,市場メカニズムが浸透し,それを浸食すれば,それは日和見的な動きをするはずである。まだ,最終的結果は得られていないが,速報値によれば,マニラ首都圏の貧困地区は前者により近い。 もっとも,この結果をより精密に検討するためには,個別家計の経済条件の変容を押さえる必要がある。今ひとつの本格調査は個別世帯の基本家計調査であった。この調査によって,速報値を見る限り,2000年代,一貫して経済条件が改善してきたことが明らかになった。これは,NGOが精力的に実施してきた奨学金プロジェクトの効果であると考えられる。したがって,これらの調査速報は,市場経済に対して慣習経済が比較的に頑強であることを示唆しているといえよう。 最後に,これらの単純化した議論を補うために,連携研究者青山は詳細な聞き取り調査を行い,調査結果の裏付けと来年度の補足調査の準備を行った。
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