研究概要 |
本年度では,成果とりまとめのための作業を行い,最終報告書がほぼ完成に近い状況になった。現地調査については,研究代表者中西,連繋研究者青山がこれまでの不足データを補うための補足調査を行った。その結果,都市居住者の社会ネットワークが,彼らの社会経済状況に与えた影響について,社会階層間の流動性の動態とコミュニティ形成過程を踏まえた分析を終了し,最終報告書を提出する準備を終えた。すなわち,研究代表者中西は,他の社会ネットワーク分析の研究プロジェクトとの連繋をも活用し,1985年から2010年までの調査を英文著書1冊(仮題:Hidden Community Dyanamics during Economic Development)としてまとめている最中である。それは,都市貧困層の社会関係を,居住地区の周辺地域,出身農村コミュニティおよび首都圏内の他の社会階層との間の関係を含め,社会ネットワーク分析による検討を包括的に行い,社会ネットワークの深化がフィリピンにおける慢性的貧困の削減に貢献しうることを明らかにしようとするものである。その内容の一部は,フィリピン国立大学における招待講演において公表された。それは,同大学を通じて大統領府貧困削減委員会に政策提言としてとりあげられ,研究の現地社会への還元をある程度まで果たした。連繋研究者青山も,同様に,最終報告書を執筆している最中であり,その成果の一部は,共著の書籍1点と学会報告によって公表された。その内容は,援助が行われる際に,住民が有するコミュニティ資源などのローカルな資源の活用にどのような問題が生じ,それを解決するためにはどのような視角からのアプローチが望ましいかを検討しようとするものであり,慢性的貧困削減のための開発援助におけるコミュニティ資源の役割についての論究となっている。その内容は研究代表者中西の研究と相互補完的関係を有している。
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