研究概要 |
本研究の目的は,フランスの35時間労働の収束方向と,可能な雇用政策を明らかにすることである。すなわち,(1) 35時間労働法(オブリー法)を修正した2005年3月31日の法のインパクトについて,同法の背景にある経団連及び右派政権の主張,小企業や病院における35時間労働制の実施上の問題,左派政党および労働組合の対応を調査研究し,同法が労使関係,賃金,労働時間および労働市場構造に与える影響を明らかにする。それと共に、(2) 2005年3月31日の法によって労働時間短縮による雇用創出を放棄した政府にとって可能な雇用政策を研究する。 平成21年度に実施した研究は以下の通りである。 (1) 2007年8月の長時間労働促進法(TEPA法)の現実の超過勤務時間に対する影響を調査し、TEPA法が右派政権の期待した長時間労働促進効果を生まなかった原因を研究した。 (2) 平成20年度末からの経済危機によって自動車メーカーは大規模な雇用調整を行っており、当初の研究計画においては予想外の事態となっていることから、35時間労働制の実態調査という当初の研究目的に加えて、経済危機におけるフランスの自動車メーカーの雇用政策と、その理由を研究した。具体的には、各企業の労使間協定の検討、フランス民主労働同盟(CFDT)への聞き取り調査、トヨタ・フランス(TMMF)への聞き取り調査を行い、各社は35時間労働制への移行交渉において確立した労使間妥協を基礎に、労働時間管理のフレキシブル化によって雇用維持を図っていることを明らかにした。 以上の研究の成果については、単著書にまとめ、科学研究費補助金の学術図書に対する成果公開促進費の助成を申請した。申請は認められ、本書は平成22年度に『労働時間の政治経済学-フランスにおけるワークシェアリングのこころみ』として刊行されることになった。
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