研究概要 |
本研究の目的は,フランスの35時間労働の収束方向と,可能な雇用政策を明らかにすることであった。平成22年度は研究期間の最終年度であり、(1)政府の政策について補足的調査研究を行い、研究者との意見交換を呼び資料収集を行う、(2)研究成果を6月のベルリンで開催される国際シンポジウム、進化経済学会大会(平成23年3月)において発表し、また研究成果を単著書にまとめ、刊行するという計画であった。 以上の計画にもとづいて平成22年度には以下の事業を実施した。 (1)ベルリンの社会科学研究所(WZB)において6月9-10日に行われた自動車産業に関する国際シンポジウムにおいて35時間労働制を採用しているルノー、プジョーSA及びフランス・トヨタ(TMMF)が2007年秋からの金融危機による生産低下と雇用危機に対して、35時間労働のための労使間協定に基づいて雇用を維持した事実を報告した。報告テーマはFlexibilisation of Working Hours Managemenl and Work Sharing : The Reaction of Renault, PSA and TMMF Facing the Crisis。ただし、進化経済学会大会における報告は、大会日が教授会と重なったため報告は断念したが、報告用論文は下記の『進化経済学の諸潮流』所収論文として公表した。 (2)11月27日に35時間労働法制定時の担当大臣M.オブリーの政策顧問の一人であるD.メダ教授と面談し、政府の雇用政策の現状について同教授の見解を聞き、また本研究の結論について議論し、同意を得た。すなわち、35時間労働法は労働時間の短縮と労働のフレキシブル化を同時に実現するとともに、多数派原則に基づく新たな労使間妥協を制度化することによって、右派政権による35時間労働法の有名無実化と長時間労働促進政策にも関わらず、大部分の企業は35時間労働制を放棄しなかったということが結論であった。 (3)研究成果として単著書『労働時間の政治経済学-フランスにおけるワークシェアリングの試み』(名古屋大学出版会)として12月に刊行し、また制度経済学の観点からする理論的インプリケーションについては論文「法と労使関係の進化-フランス35時間労働法を巡って」(『進化経済学の諸潮流』日本経済評論社所収)を発表した。
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