研究概要 |
研究第2年目にあたる2008(平成20)年度は、主に(1)日本国内事例の継続調査,(2)アメリカにおける歴史的環境保存運動に関する文献解読および現地調査研究,の2本の柱を中心に研究を行った。 第1の柱である国内研究は,北海道小樽市での定点観測を継続して行い,とくに観光開発と中心市街地活性化問題に関して,大きな進展があった。観光客でも千元客でもない人々をどう概念化するかに関して現場でのヒアリングが助けになった。また,市内の約400棟の建造物の定点観測を行い,町並みの変遷を記録し、データベース化した。このようにして1997年以降,継続的にデータを蓄積してきている。 第2のアメリカでの研究は,網羅的にアメリカ保存運動に関する文献を収集し,読み込みを行った。この領域の文献は,依然として国内にはほとんど存在しておらず,引き続き体系的な収集を試みた。特に今年度は,現地調査の際にメリーランド大学ホーンベイク図書館貴重書部門所蔵のオーラル・ヒストリー資料のコピーを600頁近く蒐集できたことは大きな成果であった。 またアメリカ・ミズーリ州セントルイス市内での歴史的建造物の取り壊し事件の継続ヒアリングも実施した。現地での関係者への再聞き取り,裁判の傍聴および写真撮影データを蓄積することができた。依然として事件の基礎データの整備を図りつつある段階であるが,全国的保存運動組織と草の根運動との視点の相違が確認できた。また,MonticelloやColonial Williamsburgなどの保存地区では,ナショナリスティックな保存への感情がそうそうした地区を産み出したものの,地域社会の再生という課題へと何らかの形で接続されてきていることが観察された。 次年度以降,こうした論点をさらに調査研究していきたいと考えている。
|