研究概要 |
研究最終年にあたる2010(平成22)年度は,主に(1)日本国内事例の継続調査,(2)アメリカにおける保存論争に関する文献解読および現地調査研究,の2本の柱を中心に研究を行った。第1の柱である国内研究は,継続して観測データを入手すべく,今年度も北海道小樽市での定点観測を実施した。観光客でも地元客でもない人々を「近郊客」という形で概念化した昨年にならい,彼らの町並みに対する影響力についても考察した。市内の約287棟の建造物の定点観測と商店街116店舗の聞き取り調査をデータベース化した。このようにして1997年以降,継続的にデータを蓄積してきている。結果的に,堺町地区での土地が特定の業者に集積されていく変遷過程が一定程度,明らかになってきた。 第2のアメリカでの研究は,引き続きアメリカ・ミズーリ州セントルイス市内での歴史的建造物の取り壊し事件の継続ヒアリングを実施しだ。現地での関係者への再聞き取り,裁判の准行状況に関して詳細なヒアリングを行った。今年度は,セントルイス市内での資料収集で1960年代からの記録など,総計で426頁を入手した。また,コロンビア大学エイブリー図書館およびハーバード大学レーブ・デザイン図書館にて,問題の取り壊された建築物に関する100年前の文書や映像資料も入手した。公判進行中であるため,現時点では知見を自由に公表できるわけではないが,問題に関与する主体の全体像が明らかになつつある。 暫定的結論として,アメリカの市場経済依存型の保存運動が直面する困難の一端が明らかにできたように思われる。
|