本究の目的は、グローバルに展開する市場主義・生産重視の都市再生に対し、持続可能で生活と生産のバランスのとれた都市再生が、多様な地域主体(行政・企業・市民)による協働関係、コミュニティ・ガバナンス(協治)により実現されることを、イギリス・アメリカ・アジアの大都市の事例から検討することである。これによりコミュニティ・ガバナンスを実現する市民セクターが育つ社会的基盤についての方策を提示することにある。 2009年度の研究実施計画としての海外調査は、中国・上海の補充調査、ジャカルタ、アメリカ・クリーブランド調査、アムステルダム調査である。これらの海外調査研究で明らかにできたことは、以下の3点である。(1)CDCsなどの市民セクターが強力に推し進めるアメリカの市民型都市再生事業は、成長型や規模縮小型など多様な事業を展開しているが、市場原理を「てこ」にしているため、サブプライム問題など経済動向に左右されやすいもろさを持っている。(2)市場原理の中に非市場原理を埋め込む事業手法を開発したアムステルダムの事例は、分権化策のもとで市民諸組織がネットワーク型ガバナンスを可能にしている。(3)アジアの都市は、中央集権体制が強いため、伝統的住民組織に依存せざるをえないインドネシア、政府との対抗関係のなかで市民型事業を運営する中国の事例、国家機能を外部化するかたちでガバナンスが求められ、市場原理の中で埋没しがちな日本の事例など、その構造と過程に違いがある。市民セクターと政府・市場セクターが築くガバナンスを持続的に展開させるには、分権化を促す都市政策、中間支援機能、組織間ネットワーク、アセット・マネジメントが重要なファクターとして絡み合っていることが判明した。
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