本研究の目的は、世界主要国におけるオナーズプログラムもしくはこれに類する特別教育プログラムが学士課程において果たす役割とその意義を明らかにすることである。そのための現地調査をオナーズ発祥の地であるイギリス、多くの大学で多様なプログラムが整備されているアメリカをはじめとして、カナダ、オーストラリア、中国、日本の大学において実施した。 オナーズプログラムを学生の側からみれば、一般の学部では習得するチャンスが少ないリーダーシップなどの社会スキルや国際交流を重点的に体験することができる。何よりも、低年次学生の学習意欲を飛躍的に高める可能性を秘めている。また、公立大学の授業料で私立の小規模カレッジと同等の手厚い学習支援が得られるというメリットがある。大学の側にとっては、プログラムを運営するのに一定のコストを要する一方で、より優秀な学生を自大学に獲得し、自大学の大学院につなぎとめる効果を期待できる。さらに、プログラムの評価が高まれば、大学の名声を高めることにもつながるというメリットを得られる。こうした点から、アメリカのオナーズプログラムは準トップクラスの公立総合大学にとって有効な経営戦略となっている。 現在のところ、日本においてオナーズプログラムを設置している大学はきわめて少数である。ただし、九州大学の21世紀プログラムを嚆矢とし、高い学習意欲を備えた学生のための特別教育プログラムが立命館大学や愛媛大学などにおいて活発に実施されるようになってきている。その最も大きな課題は、学士課程教育全体の質保証にこうしたプログラムがどの程度寄与しうるかという点である。正課外活動を包括した広義の学士課程教育の質保証にとって、これらのプログラムは一定の機能や効用を持ちうるかもしれない。しかし、単位の質保証や学位の質保証のような正課としての学士課程教育の質保証には必ずしも直結しないと考えられる。
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