「ヘリテージ・ツーリズム開発による地域発展の条件は、遺産の本質的価値の真正な継承と地域社会(local community)の持続的な発展の相互補完による実現である」とする本研究の仮説を検証するため、過去3年間に対象事例で採取したデータの解析を進めるとともに、昨年度より本研究成果の応用展開を試みているリビングヘリテージ(=人の住む遺産)研究の展開として、JICAと協力してヨルダン国サルト市において地域社会が持続的に取り組みうる文化遺産マネジメントと観光開発のあり方について実証研究を進め、開発モデルの国際協力への実用可能性を考察した.また、昨年度に引き続き、海外の先進的な歴史的港湾や文化遺産を資源とするツーリズム開発地を調査し、本研究の目指す宮島およびレブカにおけるツーリズム開発の可能性を評価した。 本年度の具体的成果は、以下の3点である。すなわち、第一は、日田市小鹿田焼の里重要文化的景観や雲仙市神代小路重要伝統的建造物群保存地区等の日本の遺産地域の事例からリビングヘリテージ価値評価の枠組みを抽出できた点、第二は、レブカの遺産を単に建造物群の価値として捉えるのではなく、住民による都市遺産や歴史的建造物の住みこなし方を都市史研究、住み方調査研究等の手法を応用、分析することで、リビングヘリテージとして総合的に評価することができ、その評価価値をマネジメントするだめの計画策定条件を抽出可能であることを明らかにした点、第三に、ヨルダン国サルト市および欧州先進事例調査から、リビングヘリテージ評価の枠組みを適用することで、歴史的市街地や集落等に対して行われてきた従来の遺産評価に、新たな視点を導入でき、日本独自の文化遺産観光開発国際協力の可能性を確認できた点である。
|