平成19年度はアブ・シール南丘陵遺跡を中心に、比較資料としてダハシュール北地区およびルクソール地域の遺跡群について現地調査を実施し、建築技術に関する新たな知見を得た。 アブ・シール南丘陵遺跡では、丘陵斜面の発掘調査を実施し、頂部の石造遺構から崩落した建材の取り上げを行った。平成19年度の調査によって丘陵斜面のほぼ全域を完掘し、崩落石材の取り上げが終結したことから、最終的な復元像の提示に向けた準備が整った。出土石材は1000点を超えており、図面資料化を図るとともに、痕跡から石材加工の復元を試みた。また石材の中には開花式パピルス柱など従来知られていなかった部材も含まれ、石造遺構の西側に列柱空間が存在した可能性を提示した。 ダハシュール北遺跡はアブ・シール南遺跡の近郊に位置する墓域で、それぞれの墓は鉛直な竪穴と棺を納めた地下室から構成される。平成19年度はこれら岩窟遺構の建築的調査を実施し、竪穴の掘削技法と墓域の配置計画について考察を試みた。その結果、当該墓域ではあらかじめ墓が用意されていたのではなく、まず整然とした配置計画に基づいてさまざまな規模の竪穴が複数用意され、死者が埋葬されるその後、竪穴の被葬者が決まると必要な大きさの地下室の掘削が進められた可能性を指摘した。 ルクソール遺跡の調査は、私人墓と王墓を対象として建築的観点から岩窟墓の調査研究を実施した。私人墓の調査では複数の墓について平立断面図を作成し、寸法計画の分析に向けた基礎資料の充実を図った。また王墓の調査研究では、第18王朝時代の王墓を中心に、壁や天井に残された痕跡から掘削手順の復元を試みた。なお、これらの成果を日本オリエント学会において口頭発表した。
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