平成20年度はアブ・シール南丘陵遺跡に加え、比較資料の収集を図るためダハシュール北地区およびルクソール地域の遺跡群を調査し、岩盤掘削技術に関する知見を得た。 アブ・シール南丘陵遺跡の発掘調査では丘陵頂部から高官墓が新たに発見され、上部構造として作られた礼拝堂(トゥーム・チャペル)の記録、分析作業を行った。被葬者を直接示す文字資料は見つからなかったが、観察の結果、新王国時代第19王朝に建立された可能性が高いことを指摘した。さらに隣接する場所から、イシスネフェルト王女の岩窟墓が発見された。内部には石棺が安置され、天井には作業員が書き付けたラインなどが残されていた。これらを記録するとともに、地下室内部に残された痕跡から岩窟墓の掘削技術や石棺の搬入方法について検討した。これらの成果については平成21年8月に実施される日本建築学会で発表する予定である。 アブ・シール南遺跡との比較を進めるために、岩窟墓が多数位置するダハシュール北遺跡において建築的調査を実施した。その結果、中王国時代の岩窟墓では竪穴が、新王国時代では竪穴と3m四方の前室が先行して用意され、その後、被葬者が決まると、棺を収める小部屋が掘削された可能性を提示した。これらの成果は日本西アジア考古学会大会、日本建築学会大会において口頭発表し、「西アジア考古学」に投稿した。 またルクソール地区においても岩窟墓の調査研究を行い、アブ・シール南、ダハシュール北地域との比較検討を行った。特に第18王朝時代後期に造営された大型私人墓を調査し、列柱空間の掘削技術について基礎資料を収集した。引き続き研究を進め、古代エジプトにおける岩窟墓の建築技術について包括的に検討する計面である。
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