インドシナ半島で生産される水産物からしばしば抗生物質が検出され、国際的な問題になっている。本研究では、タイ、ベトナムとの共同研究により、養殖場の抗生物質汚染と薬剤耐性菌、耐性遺伝子の発生をモニタリングし、水圏における薬剤耐性遺伝子の伝播と拡散の実態解明を目的としている。 初年度は、ベトナム、ハノイ周辺のエビ養殖場、養豚場、市内運河での薬剤汚染、とくに養殖で使用されるサルファ剤および養豚、人の医療でも使われるマクロライド系薬剤のモニタリングを行った。またこれらの環境における薬剤耐性菌分布を調査した。その結果、いずれの環境でも汚染が確認された。サルファ剤では濃度と耐性率に正の相関が見いだされた。耐性菌では、エビ養殖揚では比較的耐性菌率は低かったが、養豚場、運河では高かった。遺伝子ではsul1>sul2>sul3の順で検出率が高かった。これまでは、人の臨床ではsul2が優占することが知られていたが、ベトナムの水環境では異なっていた、また、様々な菌種がsu1遺伝子を保有していた。これらのことから、薬剤汚染が耐性菌の選択圧になっている実態が明らかになった。また、耐性遺伝子は人由来の細菌だけでなく環境細菌にも同じ遺伝子が検出されることから、遺伝子の伝達と拡散は様々な水環境でおこっていることが明らかになった。 これらの成果は、今後養殖場での薬剤使用に警鐘をならし、また病院や養豚場での耐性遺伝子の発生と環境への放出、およびその遺伝子の様々菌種での残存を強く示唆しており、社会的に有意義な成果である、次年度はタイ国の淡水養殖場の調査を加える予定である。
|