研究概要 |
インドシナ半島で生産される水産物からしばしば抗生物質が検出され,国際的な問題になっている.本研究では,タイ,ベトナムとの共同研究により,養殖場の抗生物質汚染と薬剤耐性菌,耐性遺伝子の発生をモニタリングし,水圏における薬剤耐性遺伝子の伝播と拡散の実態解明を目的としている. 平成20年度は,ベトナムのハノイ周辺の都市運河,養豚場およびハイフォンのエビ養殖場,ならびにタイ,コンケン市周辺の都病院排水,養豚場およびエビ養殖場で水試料のサンプリングを行った. その結果,キノロン系薬剤ではノルフラキサシンが最も多く使われている実態が分かった.ベトナムでは汚染濃度は低いが耐性菌率は高く,とくに養豚場で高かった.タイでは汚染濃度はベトナムより高かったが,耐性菌率は低かった.耐性菌率と汚染濃度に相関はみられず,耐性菌は自然環境に広く分布していることが示唆された.一方,19年度にベトナムで分離したサルファ剤耐性菌の多様性をしらべたところ,Acinetobacterが多く,本属菌がsul遺伝子のリザーバになっていると考えられた.本属菌はこれまでも様々な国で多剤耐性菌として問題になっており,今回環境中での分布実態の一部が解明されたことから,今後多剤耐性遺伝子の伝達・動態と合わせて検討する必要がある. これらの成果は,今後養殖場での薬剤使用に警鐘をならし,また病院や養豚場での耐性遺伝子の発生と環境への放出,およびその遺伝子の様々菌種での残存を強く示唆しており,社会的に有意義な成果である.次年度はタイ国の淡水養殖場の調査を継続すると同時に,陸続きでないフィリピンを対照地として加え,インドシナでの耐性遺伝子の拡大実態を考察したい.
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