研究概要 |
インドシナ半島で生産される水産物からしばしば抗生物質が検出され,国際的な問題になっている.本研究では,タイ,ベトナムとの共同研究により,養殖場の抗生物質汚染と薬剤耐性菌,耐性遺伝子の発生をモニタリングし,水圏における薬剤耐性遺伝子の伝播と拡散の実態解明を目的としている. 平成19~21年度にベトナム,タイでの調査をほぼ終え,論文執筆まで行なったので,最終年度である平成22年度は,インドシナとの比較のために,陸続きではないフィリピン,マニラで平成21年度に行なった調査の結果を解析した.巨大台風Ondoyの後の洪水によって陸と水圏の混合された環境における薬剤汚染と耐性菌発生の実態をあきらかにできた. 結果として,オキシテトラサイクリン(OTC)は検出限界以下であったが,サルファメトキサゾール(SMX)は沿岸海水を除いて,市内河川と湖で27-94 ng/Lで検出された.マニラではSMXが頻繁に使用されていることが明らかになった,耐性菌では,OTC耐性菌率は沿岸の3%を除けば他の地点では1%以下であったSMX耐性菌率は10-86%と高く,この地域の水圏に広く分布することが明らかになった.また,河川周辺環境の調査から,河川水から検出されるsul遺伝子は糞便由来であることが示唆された. 本研究を通して,インドシナの養殖場をはじめとして,養豚場,市内運河などの水環境の汚染状況と耐性菌分布が明らかになり,今後養殖場のみならず病院や養豚場などでの薬剤使用に警鐘をならし,また耐性遺伝子の発生と環境への放出,およびその遺伝子の様々な菌種での残存を証明することができる社会的に有意義な成果が得られた.
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