研究課題
平成21年度は、武漢-上海間を運行する貨物船に本装置を装備することで、広域にわたるスナメリの分布を自動観察した。その結果、これまで同一個体群と考えられていたヨウスコウスナメリの分布が南京市下流域で分断化される兆候が認められた。分子生物学的な指標では検出することが難しい短期間で起こる分断化のモニタリングに、音響観測は有用と考えられた。本調査は、中国科学院水生生物研究所のカワイルカ研究グループの協力を得て行った。揚子江における2年以上にわたる長期定点モニタリングによる季節動態や群れサイズの推定結果について報告した(米音響学会誌124,125)。さらに新たに生物装着型記録装置を用いて、スナメリが摂餌中に体を回転させながらソナーのビームを振っている行動を初めて確認した(J.Exp.Biol.213)。このデータは、次年度予定している定点音響観測手法による個体密度推定モデルに応用される。一方、これらの成果は第五回生物ソナー国際シンポジウムで招待講演として発表された。平成21年度時点で、ヨウスコウスナメリのマクロスケールの分布からミクロスケールの行動まで明らかになり、当初目的は達せられたと判断される。本研究で開発した音響観察手法は、現在日本を含む世界各地で応用されている。台湾西部海域では国立台湾大と共同で工業地域の港湾周辺におけるシナウスイロイルカの遊泳行動を明らかにしつつある。イスタンブール大学との共同研究では黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡で鯨類の移動に明瞭な日周性を認めた。デンマーク環境研究所、米海洋大気庁、インド工科大学、プーケット海洋生物研究所、香港大学、中国第三海洋研究所、長崎大学、大阪海遊館とも共同研究を開始した。本科研費で開発された手法を積極的に応用し、小型鯨類の保全に役立ててゆきたい。
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J.Exp.Biol. 213
ページ: 146-152
J.Acoust.Soc.Am. 126
ページ: 1954-1959
ページ: 468-475