本研究は、熱帯沿岸生態系の主要な構成要素である海草藻場を対象に、津波に代表されるカタストロフィックな大規模撹乱と局所的な環境改変の複合効果が生物群集に与える影響を解明することを目的とする。この目的を達成するため本年度は下記の研究調査を行った。 1、海草藻場およびベントス群の長期変動および遷移過程の追跡:現地調査を平成22年12月に、2001年より継続調査している6定点で行い、長期データの収集を継続した。津波発生前後10年間の変動様式を解析した結果、海草藻場に対する津波の影響は、局所的に大きく変異すること、海草植生の有無が津波前後の生物群集の変動パターンに影響を与えていることが判明した。 2、海草藻場海域における懸濁態有機物の動態:海草藻場に供給される懸濁態有機物の起源を特定するため、上記の観測定点の周辺海域にて採水および採泥を行い、懸濁態有機物の炭素・窒素量、炭素・窒素安定同位体比を測定した。その結果、海草藻場の堆積物中に残存している難分解性有機炭素の起源は、海洋プランクトンを中心とする微細藻類である可能性が高いことを示された。 3、堆積物環境の時間変動の解析:昨年度採集した深度2mにわたる堆積物コアの物理的・化学的分析を行った。その結果、堆積物の層状構造には、津波による大規模撹乱だけでなく、生物撹乱、モンスーンに伴う波浪による漂砂など複合的な効果があること、その効果は海草藻場内および海草藻場間で大きく変異することが明らかになった。 4、アマモ場の撹乱が生物群集・生態系機能に与える効果の解析:上記で測定した海草藻場の各種撹乱が、生物多様性および生態系機能に与える効果を実験的に解析した。その結果、堆積物の撹乱による海草類の埋没に伴い、海草類の種構成および現存量が変化し、それが魚類群集を含む消費者群集の種多様性と現存量に影響することが明らかになった。
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