研究課題
基盤研究(B)
2004年12月26日にスマトラ島沖大地震に伴い発生した大津波は、インド洋沿岸一帯の人間社会および自然生態系に甚大な被害を与えた。このような極めてまれに起こる大規模撹乱が生態系に与える影響の定量的評価には、事前データの入手が困難であるという問題点がある。研究代表者らは、2001年よりタイ南西部の沿岸生態系を対象に、生物多様性および生態系機能の変動について調査してきた。その過程で、一部の調査地が上述の大津波で激甚な撹乱を受けた。しかし、他の調査地では津波の影響は軽微であった。これにより、撹乱の程度の異なる場所における事前事後の比較により津波の影響評価を行う非常に稀有な機会を得た。本研究課題は、熱帯沿岸生態系の主要な構成要素である海草藻場を対象に、カタストロフィックな大規模撹乱と局所的な環境改変の複合効果が生物群集に与える影響を解明することを目的とする。これを達成するため、群集・生態系生態学、リモートセンシング、地理情報学、生物地球化学を統合したアプローチにより、津波発生前後の広域かつ長期にわたる海草藻場の変動パターンを解析すると共に、野外操作実験と統計的解析により、大規模撹乱と局所的環境変動の複合効果の検証および予測を行う。具体的には、以下の課題について研究を行う。(1)生物群集の長期変動解析:津波および他の環境要因の影響が異なる複数の海草藻場において、海草群集および付随する動物群集の定期的な定量調査を行い、既存データと併せ、津波前後の10年間の長期変動パターンを明らかにする。(2)海草藻場の堆積物環境の変動解析:海草藻場の物理的・化学的観測により、モンスーンによる物理撹乱、および河川水流入に伴う物理的・化学的撹乱の影響を評価する。また、大深度の柱状コアを採集し、物理的・化学的分析を行うことにより、過去数年~十数年スケールでの海草藻場の撹乱履歴を明らかにする。(3)現地リモートセンシング観測および既存リモートセンシング情報による広域動態の解析:気球等を利用した高解像度空中写真の撮影、および津波前後に撮影された航空写真および衛星画像より、海草藻場の空間分布と各種撹乱の関連性、海草藻場に対する津波の影響の強度および空間異質性を広域スケールで解明する。(4)野外操作実験:撹乱強度および頻度を操作した野外実験を行い、異なる強度・頻度で生ずる撹乱が海草藻場の群集構造に与える作用機構を解明する。(5)以上の解析より得られた知見を統合することにより、沿岸生態系における大規模撹乱と局所的環境改変の複合効果について解明する。
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Estuarine, Coastal and Shelf Science 87
ページ: 246-252
Journal of Geophysical Research
ページ: 114:G01024 (online journal)