研究概要 |
前年度に続き、米国・フロリダ州エバーグレーズにおいて乾季(昨年は雨季)の、マレーシア・サラワク州ムカにおいて雨季(昨年は乾季)の溶存有機物(DOM)試料調製を行った。また、北海道・帯広および厚岸において前年度の夏・秋試料に続き、春(4および6月)のDOM試料調製を行った。また、マレーシアおよび米国において計33地点の湿地由来河川水中のDOM濃度および腐植物質濃度を調べた。昨年の北海道試料と比較して全体的にDOM濃度が高く、マレーシアではDOM濃度(y)と腐植物質濃度(x)の関係は一次式:y=0.86xに回帰され、熱帯泥炭からの多量の水溶性腐植物質供給が河川のDOM濃度が高い原因になっていることが推定された。前年および今年度に調製したDOM試料について各種化学的性質の測定を行った。マレーシアDOMは平均分子量が26,000〜28,000であり、北海道DOMよりも均質な分子サイズを示した。元素組成では、マレーシアDOMは北海道DOMよりもH/C、O/C、N/Cが低く、N/Sの違いからN化合物に占めるアミノ酸・ペプチドの割合が低いことが推察された。しかしながら、X線光電子分光法によるN官能基組成解析では、北海道DOMおよび米国DOMよりもマレーシアDOMの方が芳香族N含有率が低い傾向が認められた。炭素安定同位体比は、米国、マレーシア、北海道各DOM試料でそれぞれ、-25〜-27‰、-29‰、-28〜-29‰であり、季節変動はほとんど認められず、一年を通して同じ起源から供給されていることが推察された。その他の分析においても、これまでのところ有意な季節変動は検出されておらず、DOM濃度が変動しても各地域に特徴的な構造特性が維持されていると推察された。
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