研究概要 |
マレーシア・サラワク州では,パルプ材用のAcacia mangiumの一斉植林地が,地域住民による既存の農地を侵食する形で急速に拡大しており,丘陵地農業への影響は極めて重大である.そこで,同州ビンツルにある植林地において,A. mangium植栽地と保全林の土壌肥沃度を比較検討した.本植林地は,1度目の植栽期間中であり,収穫はまだ行われていない.A. mangium植栽地では,植栽時の整地に重機が用いられるため,土壌が激しく攪乱され,その断面はB層を欠きC層の直上にA層が存在している場合があった.植栽地と保全林について,土壌の各性質に有意差はなかったが,植栽地の方がそれらの変動が大きかった.植栽の経過年数による明確な傾向は認められなかった.無機態窒素量や微生物バイオマス量は全炭素・窒素量と正の相関が認められたが,A. mangiumの窒素固定能によると考えられるような土壌窒素の富化は,無機態窒素量や微生物バイオマス量からは確認できなかった.しかし,植栽後の早い時期にA層が形成され,植栽地の多くの土壌有機物量が保全林に匹敵するものであったことから,A. mangiumやその他の植物種からの有機物供給により,土壌有機物は,重機による攪乱後比較的速やかに回復することが示唆された.このようにA. mangium植栽地では重機による諸作業の土壌への影響は甚大であり,今後,収穫作業や2度目の植栽作業にあたりさらに重機による土壌攪乱を受ければ,土壌の流出や荒廃地化など深刻な影響が生じる可能性があると考えられた.
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