研究概要 |
本年度は最終年度なので,昨年度に行われた本実験のデータ解析を中心とし,補足的な現地調査と圃場実験を実施した.また,中国からも共同研究者を招いて成果発表・検討会を実施するとともに,成果報告集として,九大の東アジア環境研究機構の資金的援助を得て「Biohydrology of Farmland under Desertification」(Edited by T. Kobayashi and M. Kitano), SPA & WATER Press (2010)を出版した. 中央アジアの乾燥盆地においては,地殻露出部の化学的風化により生成された可溶塩類が高山からの融雪水により流出し,活発な蒸発によってsalt panを形成する.それらが風食され飛散して堆積したのが黄土高原である.本調査・実験対象地域は,黄土高原を切開して流れる黄河流域にある.したがって灌漑水に含まれる塩類は黄土から溶出したものであり,灌漑農業を持続させるためには塩類の制御が重要な課題なる.灌漑水が豊富であれば,塩類を常に地下水に閉じ込めておくかあるいは河川に排水し希釈して海洋に放出することが現実的な方法と考えられる.しかし,黄河流域では淡水の需要が急増して下流まで河川流が届かない断流現象も起きている. 本年度は,灌概農業に変換したために黄土から多量の塩類が溶出し,それが下流部から塩水として湧き出る塩水泉に関する調査を実施した.海水よりもEC値の大きい(約60dS/m)塩水を湧出する泉が河川段丘の麓に無数存在し,それらを集水するために建設された排水路から漏れ出た塩水が周辺の作物栽培に被害を及ぼす実態を明らかにした.また,灌漑水による黄土からの塩類溶出だけでなく,灌概農業によって増える蒸発散に起因する畑地内での塩類集積の実態も明らかにした.乾燥地の灌漑農業にとって塩類化防止技術の発達は不可欠であり,本研究の継続および一層の発展が望まれる.
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