研究概要 |
ケニアのビルハルツ住血吸虫症の流行地において、開発途上国において有効な新しい対策法として期待される囮貝(住血吸虫の幼虫ミラシジウムは侵入出来るが感染型幼虫セルカリアまでには発育出来ない貝)となりうる淡水産貝を探し出すための,実験と調査を行った。囮候補貝を探すために下記の4種の実験と調査を行った。1。貝分泌物のミラシジウム誘引力の測定、2。囮貝へのミラシジウムの侵入確認、3。実験室における囮貝との共存による中間宿主貝の住血吸虫感染率の低下の観察、4。囮貝の流行地の川への大量放流による自然界における中間宿主貝の住血吸虫感染率の低下の観察。本研究においては、囮貝候補として調査地ケニア・クワレ地区に生息する4種の貝類、Cleopatra ferruginea, Bellamya unicolor, Lanistes ovum, Melanoides spと中間宿主であるBulinus globosusを用い、またミラシジウムは学童の尿中の虫卵を湧き水中で孵化させて用いた。 実験調査結果の概要を記す。1。ミラシジウムを誘引する分泌物を排泄する貝類の検索。B.globosusは強力な誘引物質を排泄した。囮貝候補の中ではL.ovumがB.globosusとほぼ同じ程度の強力な誘引物質を排泄した。C.ferrugineaも誘引物質を排泄したがその活力は中等度であった。他2種の貝類からは誘引物質は分泌されなかった。2。囮貝へのミラシジウムの侵入の確認。B.globosusへのミラシジウムの侵入はPCRにより確認出来たが、囮貝候補の4種の貝類へのミラシジウムの侵入は確認出来なかった。3。実験室における囮貝との共存による中間宿主貝の住血吸虫感染率の低下の観察。囮貝C.ferruginea30、60,150,300個体とB.globosus30個体を飼育した水槽にミラシジウム300隻を放流し、B.globosusの住血吸虫感染を調べた。水槽中の囮貝の個体数が増えてもB.globosusの感染率は囮貝が存在しない水槽での感染率、58%、と違いは見られなかった。また方法の異なる別の実験、箸箱の中央に囮貝を,一端にB.globosusを置き,他端にミラシジウムを放流し、B.globosusの感染率を調べた実験、においても、4種の貝類の囮効果は見られなかった。 4。囮貝の流行地の川への大量放流による自然界における中間宿主貝の住血吸虫感染率の低下の観察。クワレ地区のKadingo川の3地点で一年間B.globosusの個体数と住血吸虫感染率を観察した後、観察地点にそこの推定個体数の1-3倍の囮貝候補C.ferrugineaを放流し,その後一年間B.globosusの個体数と住血吸虫感染率の変動を観察した。有意の差は見られなかったが、3地点全てでわずかではあるが囮候補貝の放流後はB.globosusの感染率が低下した。 以上の実験・調査結果はC.ferrugineaとL.ovumが囮貝としての条件を一部満たすことを明らかにした。しかしクワレ地区には強力な囮効果を発揮する貝類は生息してないようである。
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