研究概要 |
本研究では、経済の発展状況及び文化の異なる国における室内空気汚染状況とその健康への影響を明らかにする目的で、バングラデシュ(2004年のひとりあたり国民所得が440米ドル)及び中国(同1290米ドル。ただし沿海部の都市では4000-6000米ドルに達すると言われる)の住居を対象に調査を行った。平成21年度に明らかになったのは下記の点である。中国大連市における男性59人と女性50人を対象とした解析では、過去に複数以上の症状があった住民では、寝室または台所のホルムアルデヒド、ブタノールまたは1, 2-ジクロロエタンの濃度が症状のなかった住民より有意に高く、また、調査時に複数以上の症状があった住民では、寝室または台所中の1, 1, 1-トリクロロエタン、キシレン、ブタノール、メチルイソブケトンとスチレンおよび濃度が症状のなかった住民より有意に高かった。室内の気中化学物質濃度はいずれもガイドラインより低かったが、このレベルの空気汚染で居住者の健康に影響を及ぼす可能性が示唆された。なお、上海市で行った追加調査においても、室内空気汚染物質濃度は日本国内のそれとほぼ同様のレベルであった。バングラデシュでの化石燃料使用家庭とバイオマス燃料使用家庭の比較からは、揮発性有機化合物及び粉じん濃度はバイオマス燃料使用家庭で有意に高く、また、夏季に比べ冬季に有意に高い結果であった。一方、症状については2つの燃料の種類の間で夏冬ともに有意な差が見られなかった。バイオマス燃料に触れる手のATP量と症状との間には有意な関連がみられなかったが、気道症状と家屋の壁の素材との間には関連がみられた。これまでの結果から、バングラデシュにおいては、測定した室内空気汚染物質以外の真菌類など、住居の材質と関連する何らかの要因が居住者の健康状態により深く関わっていることが示唆された。
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