研究概要 |
上咽頭癌(nasopharyngeal carcinoma;NPC)は東南アジアや中国南部において有病率が高く予後不良である.Epstein-Barr(EB)ウィルス感染が関与することに加えて,がん抑制遺伝子のエピジェネティック異常が発がんに重要な役割を果たすと考えられている.ヒトNPCにおける新規がん抑制遺伝子候補を探索するために,我々はプロモーター領域のhypermethylationにより不活化されている遺伝子を全ゲノムスクリーニングし,ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1(UCHL1)がNPCにおける異常hyp ermethylationのターゲットであることを見いだした.我々は6種の培養細胞株と正常上咽頭上皮組織を用いてRT-PCRによりUCHL1の発現レベルを解析した.正常上咽頭組織においては中程度のUCHL1発現が見られた.一方,6種の培養細胞株のうち5種の細胞でUCHL1は発現低下し,C666-1においては発現がなかった.メチル化特異的PCR(methylation-specific PCR,MSP),により6種すべてのNPC培養細胞株および原発腫瘍の74%(23/31)でUCHL1プロモーター領域のhypermethylationが観察されたのに対し,非NPC患者の正常上皮にはなかった.DNA methyltransferase阻害剤である5-aza-2'-deoxy cytidine (5-aza-dC)によりNPC培養細胞でのUCHL1発現低下は劇的に改善された.UCHL1のエピジェネティックな不活化はNPCにおいて頻度が高く,また腫瘍特異性が高いことから,UCHL1はNPCにおける新規がん抑制遺伝子候補であると考えられる。
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