Helicobacter pylori(H. pylori)は全世界で人口の50%以上に感染している最も感染率の高い慢性感染症であり、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALT(mucosa-associated lymphoidtissue)リンパ腫など多くの消化器疾患に関与している。一方、アジア諸国はH. pylori感染率はおしなべて高いにもかかわらず、H. pylori感染が関与して生じる疾患の種類や頻度は各国により大きく異なっている。H. pylori感染は胃癌との関連が認められ、H. pyloriは1994年に世界保健機構より1群の発癌因子に認定されている。しかし、疫学的研究におけるH. pylori感染による胃癌発症のオッズ比は、約2〜23と国や地域により大きく異なる。日本、韓国、中国では胃癌の発症が極めて高いが、フィリピン、タイ、インドネシアでは極めて低い。また、消化性潰瘍の中で、胃潰瘍の頻度は日本、韓国、中国北東部で高く、中国南部、タイ、インドネシアでは十二指腸潰瘍の頻度の方が高い。本研究では、H. pylori感染の病態解明のために、H. pylori感染の病態の民族差、「謎」、"Ethnical enigma"を明らかにすることを目的としている。 今年度は、フィリピンマニラ市のセントルークス病院と、ベトナムホーチミン市のチョーライ病院へ調査研究に出掛け、研究のプロトコール説明とサンプル採取計画を立てた。また、チョーライ病院からベトナムのH. pylori菌株のDNAを胃癌、十二指腸潰瘍、慢性胃炎それぞれ5例ずつ供与してもらい、cagA遺伝子解析を行った。全てCagAは東アジア型であったが、系統樹解析では、同じ東アジア型の中でも、日本の株とは異なる枝に分かれていた。今後、疾患との関係を検討する予定である。
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