研究概要 |
記憶領域や計算時間といった計算資源を,より多く用いれば,より難しい関数の計算や,より多くの言語の受理が可能になると考えられる.この性質を理論的に証明したものが,計算量クラスの階層定理である。本研究の目的は,計算量クラスの階層定理を利用して,計算資源量の最適性が証明できる具体的関数を人工的に作成することである.また,作成した関数を,論理設計CADシステムなどの性能評価に役立てることも目標とする.本年度は,具体的関数の人工的な作成に向けて,時間計算量と領域計算量の両クラスの厳密な階層定理を導出した.(a)非決定性と呼ばれるある種の並列計算モデルは,その動作時間を非定数倍に増やすだけで,真に受理能力が上昇することを理論的に証明した.この結果は,任意の関数f(n)に対して,ε(n)f(n)時間で受理できるが,f(n)時間では受理できないという受理時間の最適性を証明できる言語の存在性を示している.本結果は,電子情報通信学会英文論文誌に公表した.(b)関数計算の難しさを特徴づける尺度には,計算時間だけでなく,記憶領域の量も重要である.本年度の後半の研究で,領域計算量の階層定理を導出した.この結果は,領域量にn+ε(n)の差があれば,計算モデルの受理能力は真に上昇することを示している.時間量では計算時間の比に基づく階層になっていたが,領域量階層では記憶量の差に基づいている点が,理論的に興味深い性質である.本結果は,現在,国際会議へ投稿するため,論文を執筆中である.
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