手術シミュレータを対象とした血管の変形にあたり、血管の表面にのみ質点バネを配置したモデルでは、血管の正確な変形が行えない。特に、血管内に流れる血流を考慮していないため、変形により血管径が極端に細くなる。このため、血管内部にも質点とバネを配置する方法もあるが、システムの剛性方程式が膨大となり多大な処理時間がかる。また、血管内部は血液が流れており、血管そのものは空洞であるため、物理的に正確なモデルとは言えない。一方、血管内部における血流を粒子法により解析する方法も存在する。物理的には正確なモデルとなるが、やはり多大な処理時間を要するため手術シミュレータとして必要なリアルタイム応答を実現できない。そこで本研究では、血管内部に理想気体が存在するものと考えて血管内部からの圧力を考慮することで、血管径をほぼ一定に保ったまま、高速かつ正確な血管の変形を実現した。本方式では血管径の計算に繰り返し処理を必要とするが、シミュレーションの結果、1回の計算でほぼ収束することを確認した。粒子法を用いた計算では粒子数nに対してO(n^2)の計算時間が必要であるのに対し、本手法を用いると質点数nに対し、O(n)の計算時間で処理できることになり、高速化を実現することができた。また、手術シミュレータをネットワーク結合し、複数人の医師が共同で手術練習を行うことのできるシステムも構築した。特に、別々の手術シミュレータを操作している二人の医師による血管の同時変形を実現すると共に、ネットワーク化された手術シミュレータに対して、自由に途中参加、あるいは退場が行えるようにシステムを改良した。
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