研究概要 |
色彩画像における黒みの深さや強さは,見た目の印象や迫力感への重要な要因と言われている.色彩画像における黒みの物理的な特性は,画素のRGB値とそのディスプレイの表示可能な最低輝度に依存する.従って,RGB値およびディスプレイ輝度と黒みの視覚的認識や見た目の印象との関係を明らかにすることは,芸術的な画像においては特に重要な問題である.本研究では,上記の関係性を調査するために,以下の2つの実験を行った. 実験1は,観測者が黒い表面を「黒」として知覚し始めるRGB値と,観測者が同じ領域を「深みのある黒」と知覚するRGB値について調査した.実験2は,画像内の黒い物体表面のRGB値を,灰色から深い黒まで変化させ,各々の画像についてSD法(Semantic Differential method)による主観評価を行い,因子分析により共通因子を抽出した.両実験共に,美術教育科と工学部の2つの学生群を被験者とし,結果を比較検討した. 実験1の結果では、「黒らしい黒」と認識させるには原画像よりRGB値を下げる必要がある画像があった.実験2では黒み評価において,「上質軸」「雰囲気軸」「質感軸」が抽出された.画像内の物体表面の黒みが増すとその感性的評価が上がる形容詞対と,原画像の方が評価の高い形容詞対があることが確認された.また工学系学生群の結果と美術系学生群の結果を比較したところ,黒みの変化に伴う評価の変動は同様の傾向を示していたが,「上質軸」と「雰囲気軸」については美術系学生群の方が,「質感軸」については工学部学生群が,より明瞭な主観評価を行うことが示唆された. 本研究により,電子色彩画像における黒みの持つ感性的役割について,ディスプレイの物理特性や画素情報との定量的関係に基づいた解明への可能性が示された.
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